『鬼束ちひろ 「LAS VEGAS」』
goni005.jpg

 長いブランクを経て、鬼束ちひろ(以下、鬼やん)が昨年出したアルバムです。鬼やんはもうダメだ、と思っていましたので、こうやって新作が出ることは喜ばしいことであります。しかし前に復帰した鬼やんが歌っているのをテレビで見て、あまりの変貌振りに愕然としたこともあって、このアルバムを聞くのが怖いという気持ちもありました。テレビで見た鬼やんは、声は出ていないし音程は取れていないしリズムはボロボロだし、見るも無惨な醜態を晒していました。こんな鬼やんが作り上げた新作ですから、期待できるはずがありません…。だから今日まで聞くのを避けてきたのであります。


 などと思いつつこのアルバムを聞いてみると、やはり鬼やんはボロボロでありました。我が人生のベスト10に入る衝撃のデビュー作「インソムニア」の発表後、坂道を転げ落ちるようにダメになっていきましたが、ここで聞ける鬼やんは、既に「インソムニア」の頃とは別人になってしまったようです。この精気を吸い取られて枯れてしまったような歌は、一体何事なのでしょうか?「インソムニア」とは別の意味で、衝撃的なアルバムですね。


 曲の出来自体は悪くないんです。レベル的にはデビュー作に近いものが出来ていると思います。プロデュースは小林武史が担当していますが、曲を生かす実に適切で良い仕事をしていると思います。となると、後は鬼やんの歌の問題になってくるわけです。この枯れてしまったような歌声、昔と比べると凄みが出てきたと表現することもできるでしょうが、昔の歌の素晴らしさを知っている者としては、この衰え振りはやはり衝撃と言わざるを得ません。例えて言うなら、可愛らしい声のアイドル歌手だったマリアンヌ・フェイスフルが、いきなり老婆のような汚いしゃがれ声で復活したような感じとでも言いますか。鬼やんの身に何があったのかは知りませんし、彼女のプライベートなことを詮索する気は全くありませんが、きっと大変な時間を過ごしていたのでしょうね。


 しかしこのアルバム、じっくりと聞いていると、彼女が今出来ることを必死にやっていることは十分に伝わってきます。醜態を晒そうがどうしようが、やはり自分には音楽しかないと覚悟を決めて、今出せる力を全力で出し切ろうとしている姿勢が感じ取れます。これは大事なことだと思います。「インソムニア」以降の鬼やんに欠けていたのは、もしかしたらこの姿勢なのかもしれませんね。たとえ歌が衰えても、この姿勢が身に付いたのであれば、長い不調とブランクも無駄ではなかったように思います。


 9曲目で鬼やん自身が「私はまだ死んではいない」と歌っていますが、確かにその通りだと思います。まだまだ若いのですから、これからいくらでも未来がありますからね。本来の調子を取り戻す可能性もあるでしょう。やっぱりこれからも鬼やんを応援し続けていこうと思う、ころんでございました。


あと、コメント欄に試聴を貼り付けておきますので、よろしければお試しを。
【2008/03/27 23:19】 東アジア | トラックバック(0) | コメント(1) |
| ホーム |