
鬼束ちひろの01年発表の、ヒット・シングル「月光」と「眩暈」を含むデビュー・アルバムです。「月光」というタイトルに象徴される通り、暗闇の中に浮かび上がる冷たく青白い月光の如く静謐で美しい作品です。時に何かに取り憑かれたかのように、時に全てを諦めてしまったかのように、独特の言葉使いで歌う彼女の鬼気迫る歌は衝撃的でした。
歌も歌詞も非常に暗いのですが、気が滅入るようなものではなく、心の襞にそっと入り込んでくるような暗さなので、聞けばかえって心が落ち着きます。デビュー当時は色々なところで癒し系と言われていましたが、おそらくこれが彼女が「癒し系」と言われる所以でしょう。ちょっと心が沈んだ時、心を落ち着けたい時なんかに処方すると、非常に効果的です。私にとってこのアルバムは鎮静剤とか鎮痛剤みたいな存在で、発表から既に7年経ちますがいまだに良く聞いていて、効果は衰えることがありません。
このアルバムに収録された曲は、彼女がデビューする前から書き溜めていた曲も含まれているようですが、全てが暗く青白く光るような美しさを持った曲で、他のどのアルバムよりも出来が良い曲が揃っているように思います。中でもやはり「月光」は彼女が書いた最高の曲だと言えるでしょう。「月光」を聞いた時に、おそらく今後この曲を超える曲は書けないのではないかと思ったのですが、残念ながらそれは現時点では現実となってしまっています。このアルバムで鬼束は頂点を迎えてしまい、その後は急激に失速してしまうのでありました。
音楽的な失速に同調するかのように事故や病気なども続き、しばらく音沙汰が無くなってしまいましたが、やっと最近になって活動を再開し始めました。しかし久し振りに聞いた彼女の歌は、声は出ていない、音程は取れていない、どんなメロディを歌っているのか全くわからない、あまりに無惨なものでした。この衰えぶりには激しくショックを受けてしまいました。こんなことなら復活しない方が良かったのかも、などと不謹慎なことを思ったりもしましたが、やっぱり応援し続けていこうと思っています…ということは先日取り上げた彼女の最新作のネタで書きましたね。
今後彼女がここで聞かせてくれた程の輝きを取り戻せるかどうかは全くわかりませんが、とりあえずはこの作品を残したことで、彼女の名前が日本のポップス史に刻まれることになったのは間違い無いと思います。日本のポップスに興味がある人なら、一度は耳にしても良いアルバムなのではないでしょうか。
あと、コメント欄に試聴を貼り付けておきますので、よろしければお試しを。